ザ・ミュージックマン

西川貴教主演版の「ザ・ミュージックマン」を池袋の東京芸術劇場中ホールで2回、初台の新国立劇場中劇場で1回見た。キャスト情報は適当に検索していただくこととして。

CD情報

The Music Man: Original Cast (1957 Broadway Cast)

The Music Man: Original Cast (1957 Broadway Cast)

ブロードウェイ・オリジナルキャスト盤。1956。
バーバラ・クックがヒロイン。ヒロインは歌唱力のあるブロンドの歌姫ばかりだ。
BOC は複数の種類が出ている。ボーナストラックが入っている物もあるのでそちらがお得かも知れない。

Music Man

Music Man

ディズニーTV版のCD。
クリスティン・チェノウェスがヒロイン。
日本では入手不能かもしれない。

Music Man

Music Man

 
これは2000年リバイバルキャスト盤。今回の公演で劇場でも売られていたもの。
フィナーレ、面白いよ。少年のセリフを要チェック。こんな演出だったのね。

他にサウンドトラック盤(これはヒロインがシャーリー・ジョーンズ)、ロンドンキャスト盤がある。いずれも輸入にて入手のこと。

DVD

DVDは映画版、ディズニーTV版がある。いずれも海外仕様なのでそのままではDVDは再生できないので注意のこと。VHS版は視聴可能。当然日本語訳はないのだが、英語字幕は入っているのでそれなりに聴き取れて意味も判るだろうと思われる。

Music Man [DVD] [Import]

Music Man [DVD] [Import]

ディズニーTVバージョンのDVD。

Music Man [VHS]

Music Man [VHS]

映画版のブルーレイディスクとVHS。

翻訳物の定番

翻訳物舞台だと、舞台上に置かれているものに文字が書かれていることが多い。
たとえば、「スペリングビー」だと会場となる学校の由来や体育館についてローマ字で書かれていた。視力が良いなら裸眼でも読めるかも知れないが、そういうこともあって、たとえ最前列であったとしてもオペラグラスで舞台上を全部チェックしまくる、これがマニアックな客の態度としては当たり前のことだと思う。
ミュージックマン」でもそういう箇所がある。豚の銅像のプレートだ。
『吾輩はブタである、名前はまだない、このアイオワ州の特産物と言うことになっている、趣味はポエムを読むことである、ブ、ブ、ブ、ブー』
ブタであることの理由が書いてあったのだ。

原語ネタ

英語からの日本語翻訳ということで、いくつかの原語ネタが端折られていたり改変されていることがある。その幾つかを紹介しておく。
男の子の「舌っ足らず」は「さしすせそ」が「しゃししゅしぇしょ」になってしまうというもの。これは、男の子が lisp であり「s」の発音が「th」になってしまうということの翻案。プログラマ的には Lisp というと mulegcc のベースになっているプログラミング言語だが、そういえば元々そういう意味があったと思い出した。
「オールドミス」は英語的には「old maid」。単語の意味の変遷を調べてみるとかなりきつい言い方のように思える。
市長が繰り返し使う「人民の人民による…」はリンカーンゲティスバーグ演説。これは英語では「four score」と言っている。同じくリンカーンゲティスバーグ演説出だしの言葉である。ミュージカル「Hair」の「Abie Baby」がそれを真似した歌詞だ。だから「Happy birthday, Abie baby」と歌う。Abie はリンカーンの愛称。
イカす女」の原題は「shipoopi」。辞書には載ってない単語。ただし、現代語辞書には載っている。『初出は The Music Man の歌曲タイトルで「shit」と「poopie」の鞄語ではないか』だそうだ。鞄語とは「不思議の国のアリス」のルイス・キャロルが始祖的存在の言葉遊び。二つの単語を鞄に詰め合わせたようにして新しい単語を作る。たとえば「スナーク狩り」の Snark は snake と shark の鞄語。
「Marian The Librarian」は「マリアン」と「マダムライブラリアン」の言葉遊び。

考察

The MusicMan の楽曲リストを US Wikipedia から引用してみる。

"Rock Island" – Charlie Cowell and Traveling Salesmen
"Iowa Stubborn" – Townspeople of River City
"(Ya Got) Trouble" – Harold Hill and Townspeople
"Piano Lesson" – Marian Paroo, Mrs. Paroo and Amaryllis
"Goodnight, My Someone" – Marian
"Seventy-six Trombones" – Harold, Boys and Girls
"Sincere" – Quartet (Olin Britt, Oliver Hix, Ewart Dunlop, Jacey Squires)
"The Sadder-But-Wiser Girl" – Harold, Marcellus Washburn
"Pickalittle (Talk-a-Little)" – Eulalie Mackecknie Shinn, Maud Dunlop, Ethel Toffelmier, Alma Hix, Mrs. Squires and Ladies of River City
"Goodnight Ladies" – Quartet
"Marian The Librarian" – Harold, Boys and Girls
"My White Knight" – Marian
"The Wells Fargo Wagon" – Winthrop Paroo, Townspeople
"It's You" – The Quartet, Eulalie, Maud, Ethel, Alma and Mrs. Squires
"Shipoopi" – Marcellus, Harold, Marian and townspeople
"Pickalittle (Talk-a-Little)" (reprise) – Eulalie, Maud, Ethel, Alma, Mrs. Squires and Ladies
"Lida Rose" – Quartet
"Will I Ever Tell You" – Marian
"Gary, Indiana" – Winthrop
"It's You" (reprise) – Townspeople, Boys and Girls
"Till There Was You" – Marian, Harold
"Seventy Six Trombones" (reprise) – Harold and Marian
"Goodnight, My Someone" (reprise) – Marian and Harold
"Till There Was You" (reprise) – Harold
"Finale" – Company

プロフェッサー・ハロルド・ヒルは偽名。ここでプロフェッサーとは「教授」の意味ではなく「楽団長」の意味だ。町に子供のプラスバンドを作りそれを指揮すると称して楽器や楽譜、ユニフォームまで売りつけるという詐欺まがいの流れセールスマンが主人公。
この作品では彼は最初から最後まで指揮者として行動する。音楽の指揮者ではなく、大人達を煽り子供達を組織しまとめあげていく、そういう指揮者である。彼は誰もを分け隔てなく話しかけ仲間にしていく、非常に有能なセールスマンであり指揮者である。ただ問題は自分が売っているブラスバンドについての知識が無いこと。
最初の「ロックアイランド」は列車内でセールスマン達が歌うラップ風の曲だ。内容はハロルド・ヒルの噂について。舞台ミュージカルでリズムだけの曲を初っ端にやるのは記憶にない。ハロルドはここでは歌わない。
二曲目の「頑固なアイオワ」は町の人達がハロルドに歌う曲。ようやくメロディが現われて一息つくように作られている。
三曲目が「問題あるよ」。ハロルドは話すように歌う。歌といってもほとんど喋りのリズムが基本で、まだ主人公が歌っているとは言えない。
見ている側がストレスを感じ始めるように作っているのだ。
そして場面はヒロインの自宅へ。「ピアノレッスン」の母娘の掛け合いも喋りのリズムが基本。
ようやくここで主人公達のメロディが登場する。「おやすみ誰かさん」でマリアンの歌声が聞こえる。この曲はマリアンの夢を願った曲であることに注意しておこう。
そしてこのあとは体育館で町の人達を煽りまくるハロルドによる「76本のトロンボーン」。「問題あるよ」を序奏にして待ちに待った主人公によるメロディだ。さんざんじらしておいてやっと出た感じがするため、非常に安堵感が与えられる。


原語ネタのところでも少し触れたが、二つの違ったモノを提示してそれが一つのモノであるという見せ方を好んで用いている。これは曲も同じだ。
一つのメロディが出てきて、さらに別のメロディが出てきたと思ったらそれが途中で組み合わさって一曲の曲になるという作りが多い。「Pickalittle」と「Goodnight Ladies」、「Lida Rose」と「Will I Ever Tell You」がそれだ。
この作品の作詞作曲家は曲の秘密を観客に隠さずに教えてくれているのである。
一番の驚きはラスト近くの「Seventy Six Trombones」と「Goodnight, My Someone」だ。最初ハロルドが「76本の〜」を歌い、マリアンは「おやすみ誰かさん」を歌う。それを繰り返し、3回目に歌が逆転しハロルドが「おやすみ〜」を歌いマリアンが「76本の〜」を歌う。ここはハロルドがマリアンに屈し、マリアンが勝利したことを意味するシーンでもあるが、さらに驚きをあたえるのはこの二つの曲は同じメロディを使った曲であることを知らせてくれることだ。とても感傷的な「Goodnight, My Someone」と元気溌剌な「Seventy Six Trombones」がアレンジが違うだけの同曲だと気づかされるから驚くのである。(もちろん最初から判りきっている人もいるとは思うが、このように聞かされなければ私はしばらくの間気がつかなかったと思う)
最後の最後にこのようなネタ晴らしをやってのけて作品は終わる。そして出演者達の演奏する主題歌を聴いて、マリアンの夢とハロルドの夢が同じであったことを理解するのだ。