ひめゆり ミュージカル座
五年前の日記を見るとその時は絶賛していた。ところが時間が経つにつれて何か違和感を持つようになってきた。今回の公演を観て、人の意見も聞きながら更に考え、現在思っていることを書き留めておくことにする。五年間の総括でもある。
以下、ネタバレを多量に含むので、まだ見ていない人は読んではいけない。あらかじめ警告しておく。
キャスト(敬称略)
2002年、2004年、2005年、2010年のキャスト表を掲載する。それ以前のキャスト表は未入手。(2002年は組名が記述されていなかった)
役名 | 2002 | 2002 | 2004ひめ組 | 2004ゆり組 |
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キミ 学徒 | 本田美奈子 | 本田美奈子 | 本田美奈子 | 本田美奈子 |
上原婦長 | 鈴木ほのか | 鈴木ほのか | 土居裕子 | 土居裕子 |
滝軍曹 | 岡幸二郎 | 岡幸二郎 | 岡幸二郎 | 岡幸二郎 |
檜山上等兵 | 石川禅 | 石川禅 | 戸井勝海 | 戸井勝海 |
ふみ 学徒 | 鈴木智香子 | 片桐和美 | 川田真由美 | 鈴木智香子 |
はる 学徒 | 川田真由美 | 深沢美貴子 | 片桐和美 | 鬼頭典子 |
かな 学徒 | 梅沢明恵 | 大久保美鈴 | 梅沢明恵 | 川村絵良 |
みさ 学徒 | 矢野香苗子 | 村上由香 | 三宅文子 | 矢野香苗子 |
ちよ 学徒 | 手塚順子 | 浦壁多恵 | 青島凛 | 南アイ |
ゆき 学徒 | 三辻香織 | 菅原さおり | 三辻香織 | 井上喜代子 |
あき 学徒 | 藤澤知佳 | 永浜あき | 村上由香 | 藤澤知佳 |
杉原上等兵 | 萬谷法英 | 中本吉成 | 中本吉成 | 萬谷法英 |
神谷先生 | 竹本敏彰 | 竹本敏彰 | 竹本敏彰 | 本間識章 |
岡教頭先生・軍医 | 大城一彦 | 大城一彦 | 本間識章 | 高原達也 |
サチ(赤ん坊の母) | 桑原麻希 | 足立紫帆 | 桑原麻希 | 浜崎真美 |
親泊先生 | 亘あずさ | 福地洋子 | わたりあずさ | 福地洋子 |
ルリ(ふみの妹) | 浦壁多恵 | 村上恵子 | 小笠真紀 | 浦壁多恵 |
キヨ(ふみの母) | 福地洋子 | 亘あずさ | 米倉裕子 | 植松恵理 |
みち 学徒 | 村上恵子 | 南アイ | 鈴木さやか | 吉岡裕子 |
のぶ 学徒 | 色摩由維 | 本田麻希子 | 長谷川恵 | 向井玲子 |
クミ 学徒 | 井上聡子 | 高氏真樹 | 市川真紀子 | 村上恵子 |
やえ 学徒 | 勝山めぐみ | 蒲ゆかり | 中井奈々子 | 福田奈実 |
とし 学徒 | 中島みずえ | 大通香 | 村越真喜子 | 朝子洋美 |
みよ 学徒 | 山根三和 | 毛塚奈津江 | 門川明日香 | 毛塚奈津江 |
たき 学徒 | 向井玲子 | 朝子洋美 | ― | ― |
ヒサ 学徒 | 村越真喜子 | 野沢敦子 | 夏目志保子 | 箕輪菜穂江 |
キク 学徒 | 市川真紀子 | 井上喜代子 | 西利里子 | 永浜あき |
もも 学徒 | 横山友恵 | 美彩真依 | 諸戸菜生美 | 木原慶子 |
トミ 学徒 | 芝田真代 | 西利里子 | 田中さとみ | 本井亜弥 |
しず 学徒 | 福田奈実 | 野沢寛子 | 斉藤里絵 | 鈴木恵理 |
女性ens. | 風松真理 | 三浦友美 | 蒔田舞子 | 吉田桃子 |
女性ens. | 斉藤里絵 | 鈴木恵理 | 三浦友美 | 山本英美 |
女性ens. | 関沢明日香 | 深澤英里 | 矢ヶ部妙子 | 高井彩加 |
女性ens. | 由井美貴子 | 小泉千恵 | 中村奈津紀 | 小貫紀子 |
女性ens. | 橋本尚子 | 鈴木さやか | 北川郁 | 久保田法江 |
女性ens. | 大岩厚子 | 吉田桃子 | 覚本弘美 | 米澤麻希 |
女性ens. | 津森久美子 | 末光絵里 | 渡辺さやか | 柴崎奈都子 |
女性ens. | 杵鞭千賀子 | 伊藤祥子 | 須原加奈子 | 佐藤なつみ |
女性ens. | 朝子洋美 | 向井玲子 | 朝日悠紀子 | 長橋佳奈 |
女性ens. | 井上喜代子 | 市川真紀子 | ― | ― |
女性ens. | 野沢寛子 | 福田奈実 | ― | ― |
女性ens. | 毛塚奈津江 | 山根三和 | ― | ― |
女性ens. | 野沢敦子 | 村越真喜子 | ― | ― |
女性ens. | 美彩真依 | 横山友恵 | ― | ― |
女性ens. | 西利里子 | 芝田真代 | ― | ― |
男性ens. | 萬谷法英 | 萬谷法英 | 本田和男 | 本田和男 |
男性ens. | 中本吉成 | 中本吉成 | 菅野良和 | 菅野良和 |
男性ens. | 吉沢範彦 | 吉沢範彦 | 伴仲昭彦 | 伴仲昭彦 |
男性ens. | 筑紫吉幸 | 筑紫吉幸 | 植草栄治 | 植草栄治 |
男性ens. | 奥山寛 | 奥山寛 | 平野淳 | 平野淳 |
男性ens. | 伴仲昭彦 | 伴仲昭彦 | 都月直哉 | 都月直哉 |
男性ens. | 奈良坂紀 | 奈良坂紀 | 萬谷法英 | 中本吉成 |
男性ens. | 高倉申充 | 高倉申充 | 今野哲治 | 今野哲治 |
男性ens. | 菅野良和 | 菅野良和 | 佐野信輔 | 佐野信輔 |
男性ens. | 寺本貴至 | 寺本貴至 | 新宮崇太 | 新宮崇太 |
男性ens. | 本田和男 | 本田和男 | 遠藤修 | 遠藤修 |
役名 | 2005月組 | 2005星組 | 2010月組 | 2010星組 |
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キミ 学徒 | 島田歌穂 | 島田歌穂 | 知念里奈 | 知念里奈 |
上原婦長 | 土居裕子 | 土居裕子 | 井料瑠美 | 井料瑠美 |
滝軍曹 | 今拓哉 | 今拓哉 | 岡幸二郎 | 岡幸二郎 |
檜山上等兵 | 戸井勝海 | 戸井勝海 | 原田優一 | 原田優一 |
ふみ 学徒 | 鈴木智香子 | 狩俣咲子 | 片桐和美 | 神郡英恵 |
はる 学徒 | 深沢美貴子 | 片桐和美 | 深沢美貴子 | 宮崎祥子 |
かな 学徒 | 川田真由美 | 会川彩子 | 梅沢明恵 | 天野朋子 |
みさ 学徒 | 木村美穂 | 向井玲子 | 藤澤知佳 | 田宮華苗 |
ちよ 学徒 | 村井麻友美 | 青島凛 | 穂積由香 | 青島凛 |
ゆき 学徒 | 浦壁多恵 | 新井祐美 | 浦壁多恵 | 高田亜矢子 |
あき 学徒 | 藤澤知佳 | 朝子洋美 | 三辻香織 | 清水彩花 |
杉原上等兵 | 高野絹也 | 中本吉成 | 麻田キョウヤ | 佐野信輔 |
神谷先生 | KAZZ | 竹本敏彰 | 中本吉成 | 菊地まさはる |
岡教頭先生・軍医 | 高原達也 | 佐野信輔 | 北村がく | 北村がく |
サチ(赤ん坊の母) | 桑原麻希 | 三辻香織 | わたりあずさ | 川田真由美 |
親泊先生 | 三宅文子 | 福地洋子 | 吉田英美 | 大塚恵美 |
ルリ(ふみの妹) | 村上由香 | 村上恵子 | 村上恵子 | 太田智子 |
キヨ(ふみの母) | 福地洋子 | 植松恵理 | 二本松広子 | 伊藤みさお |
みち 学徒 | 永浜あき | 箕輪菜穂江 | 泉瑠衣 | 田代迪子 |
のぶ 学徒 | 梅沢明恵 | 福田奈実 | 西利里子 | 緒川真生 |
クミ 学徒 | 山根三和 | 水野貴以 | 春衣 | 中山理沙 |
やえ 学徒 | 色摩由維 | 鈴木恵理 | 月坂日南 | 小林風花 |
とし 学徒 | 西利里子 | 篠原沙和実 | 中村ひかり | 福田奈実 |
みよ 学徒 | 加藤四季 | 関沢明日香 | 三森千愛 | 坂本香織 |
たき 学徒 | 須藤香菜 | マリア万輝 | 中川絵梨香 | 我妻春佳 |
ヒサ 学徒 | 勝山めぐみ | 赤堀史枝 | 藤井真美 | 小川希 |
キク 学徒 | 深澤英里 | 吉田桃子 | 吉澤由佳 | 鈴奈けい |
もも 学徒 | 池田祐子 | 田宮華苗 | 武藏優美 | 長松恵梨 |
トミ 学徒 | 高田美佳 | 斉藤恵子 | 宮関里美 | 滝口恵梨果 |
しず 学徒 | 富塚万佑子 | 高垣彩陽 | 篠崎未伶奈 | 夢野早希 |
ちえ 学徒 | ― | ― | 梅津めぐみ | 上矢菜緒実 |
女性ens. | 蒔田舞子 | 渡辺さやか | 野沢美喜 | 永谷多佳子 |
女性ens. | 五十嵐智佳子 | 佐々木百合 | 高尾百合 | 高橋佳子 |
女性ens. | 一ノ瀬寛子 | 木村知美 | 黒岩貴子 | 永澤恵 |
女性ens. | 倉島文子 | 川辺由美 | 栗山絵美理 | 香本真梨奈 |
女性ens. | 岡安恵梨奈 | 岡崎桂子 | 高橋咲 | 有坂きなり |
女性ens. | 上矢菜緒実 | 桂月彩有 | 有松仁美 | 妹尾理映子 |
女性ens. | 石川真結 | 島田季久代 | ― | ― |
女性ens. | 根立麻衣 | 林彩香 | ― | ― |
女性ens. | 木下一枝 | 三浦友美 | ― | ― |
女性ens. | 松谷友香 | 馬渡千春 | ― | ― |
男性ens. | 中本吉成 | 高野絹也 | 佐野信輔 | 麻田キョウヤ |
男性ens. | 佐野信輔 | KAZZ | 菊地まさはる | 中本吉成 |
男性ens. | 菅野良和 | 菅野良和 | 青木結矢 | 青木結矢 |
男性ens. | 櫻井太郎 | 櫻井太郎 | 杉野俊太郎 | 杉野俊太郎 |
男性ens. | 高原紳輔 | 高原紳輔 | 秋本晋作 | 秋本晋作 |
男性ens. | 伴仲昭彦 | 伴仲昭彦 | 松戸拓麻 | 松戸拓麻 |
男性ens. | 植草栄治 | 植草栄治 | 佐藤靖朗 | 佐藤靖朗 |
男性ens. | 町田兼一 | 町田兼一 | 室伏崇 | 室伏崇 |
男性ens. | さとうゆういち | さとうゆういち | 森雄基 | 森雄基 |
男性ens. | 古屋泰平 | 古屋泰平 | 竹野聡 | 竹野聡 |
男性ens. | 山口聡史 | 山口聡史 | ― | ― |
これ以前の主役「キミ」役は伊東恵里。
戦争という側面
滝軍曹という人物が描かれる。彼は美しい国と人々を守るために生きている。また生きて虜囚の恥を受けずという態度を持ち、他人にもそうであるように望む人物である。
軍曹の対極にいる人物として上原婦長が描かれる。彼女は傷病兵の看護はもちろん、学徒達に優しく声を掛け励まし、みんなに生きてくれと言い続ける人物である。
学徒や兵士、そして民間人が逃げ落ちた洞穴で赤ん坊が泣き出す。軍曹は母親をスパイと決めつけ、泣きやまない赤ん坊をひねり殺し、怒る母親をも撃ち殺す。
婦長は逃げ落ちるときにお腹を撃たれ息も絶え絶えになっている。そこへ主人公のキミが洞窟に現われる。彼女は皆とはぐれてしまい、ようやく一人、合流することができたのだ。
そこへ米軍からの投降を呼びかける声が聞こえてくる。キミは生きるために投降しようと呼びかけるが、軍曹は許さない。軍曹はキミを撃ち殺そうとする。その時、婦長は学徒達の先生から預かっていた拳銃で軍曹を撃つ。
人の死を善しとしない婦長が軍曹を殺すのだろうか?
婦長が元気だったなら身を挺してキミを守ったことだろう。それが出来ないからそうするしかなかったのかもしれない。そしてその時点で婦長と軍曹は同じ人物になってしまうのだ。軍曹も婦長も同じ論理で行動している人物なのだ。二人ともできるだけ多くの人を生かすために、誰かを殺すという選択を迫られてしまった。
何が問題なのか? 二人をそのような選択におとしめた戦争という出来事である。人に殺人を迫るその状況こそが根本問題なのだ。二人とも立場によっては悪人であり善人であろう。しかし、このような状況にならなければ殺人を行なわなくてすんだのだ。「人を殺してはいけない」というのは絶対真理ではなくて、「人を殺すことが正当化される状況を作ってはいけない」ということのほうが正しいもののように思える。
生きることという側面
キミという主人公の動きを見てみる。
杉原上等兵が病院で足を切り落とされる手術の場に立ち会う。彼は「足を切るくらいなら自分を殺してくれ」と言う。手術後、彼は彼女に感謝の言葉を述べる。米軍の攻撃が激しくなり、病院から撤退することが決まる。その時、動けない者は毒を飲まされ殺される。杉原上等兵もその一人だ。脱出途中のキミはそのことを聞かされ病院に戻ろうと駆け出す。それを檜山上等兵が捕まえキミを肩に担いで脱出していく。
キミと檜山上等兵は仲間達とはぐれる。檜山上等兵は足を撃たれ動けなくなる。キミは彼を看護する。拳銃で自殺しようとする檜山上等兵を阻止し、そしてキミは主題歌「生きている」を歌う。どんなにつらいことがあっても生きるべきなのだと歌う。米国空軍機の機銃掃射にさらされた二人、檜山上等兵はキミをかばい撃たれ、亡くなる。キミは叫ぶ、「私も殺して」と。
そしてキミはみんなが避難している洞窟へとやってくる。滝軍曹と上原婦長の死、そしてガス弾による学徒達の死。一人生き残るキミ。
生き残った他の二つの学徒達の話が描かれる。三人組は米兵から逃げ回った挙げ句、捕まったら水と食べ物を与えられ助けられる。二人の姉妹は助け合いながらようやく自分の家に帰り着く。
彼女たちとキミは生き長らえる過程で質的に大きく異なる、キミだけが多くの命の犠牲により成り立っているのだ。
ただ、彼女だけが助かるシーンを見せるだけでは、彼女の魂が救われない。
そのために彼女と関わったすでに死んだ者達が彼女の前に立ち「生きろ」と励ますのである。そして最後にリプリーズされる主題歌に続く。キミが檜山上等兵の為に歌った「生きている」を自分のために歌うのである。
覆い隠された悲劇
最初に違和感があると書いたが、実はこのキミのことなのだ。
学徒のゆきが歌う「小鳥の歌」は死を目前にした帰郷の歌で、その場面で歌われるときあまりに悲しく感じられる。こちらは戦争の悲惨さを表わしているように見える。
ところが主題歌の「生きている」はそれとは別のものなのだ。そこに死にたくなるくらいの苦しみがあったとしても誰かに生かされた命なのだから生きて行かなくてはいけない。これは戦争とは別の次元の話なのである。
キミは助けたはずの二人の兵隊の死を見、婦長によって殺される滝軍曹を見、自分を助けた婦長の死を見、婦長を見ていないでそのまま降服していれば助かったはずの学徒達の死をも見る。彼女は生き残ったとしても地獄に居るような気持ちだったに違いないのだ。その彼女の魂を救い出すためだけの歌が「生きている」なのである。更にはそれに気がついた観客を助け出すための歌でもあるのだ。
ところが戦争の悲惨さというものがあまりに大きすぎるため、キミの悲劇が覆い隠されてしまっている。観客は「何故、主題歌の出現時に感動を感じるのか」を考えなくてはそこに行き着けない。どのくらいの観客がそこに気づいているのか興味を持つところである。
「サイト」にしても「アイハヴアドリーム」にしても、演出家・脚本家は常に「生きなさい」と言い続けているようである。