オリジナルキャスト盤

この原稿は先に日記で書いた物の加筆修正版である。

最近、演劇の録音CDをサウンドトラックと言って売っていることがある。そりゃ違うだろ。サウンドトラックってのは映画のフィルムの音声トラックのことで、それをレコードなりCDなりにしたものがサウンドトラック盤。お前らはフィルムに一回落しているんか? と、これは具体的に「ドントトラストオーバー30」を指しての批判。
サウンドトラック盤を最初に作ったのはMGM。今でも当時の音源が残されていてサウンドトラックの新盤が出てくる。「オズの魔法使い」は発売されるたびに曲数が増え、別takeの曲まで付いてくる。「雨に唄えば」も同様だし、「アニーよ銃を取れ」はベティ・ハットン版だけではなくジュディ・ガーランド版がバンドルされたものも出ている。
演劇の録音はキャスト盤と言う。同じ演劇で複数の版がある場合は、地域の名称を付け、一番最初に演じられたキャストのものならば「オリジナル」をつける。ブロードウェイ初演版はオリジナルブロードウェイキャストだし、東京初演ならオリジナル東京キャスト。二度目の演目ならば、オリジナルの代わりにリバイバルをつける。何回も演じられているならば年度を付ける。2001年大阪キャストとか。
本来は開演初日の数日前に録音するもの。モノによってはライブ版もある。日本の「レ・ミゼラブル」なんかは名古屋のライブ録音で、2キャストある。これらはレミズ赤盤、レミズ青盤と略称される。(レミズというのはマニアの間での略称で、レミゼと発音する人もいる。) パッケージの色が赤青で色分けされているから。赤盤を正確に言おうとするとオリジナル名古屋(あるいは、日本)ライブキャスト鹿賀丈史版になってしまう。そんな言い方はしない。あっても、オリジナル東京キャスト赤盤。録音場所の名古屋は初演の東京にすり替わってしまう可能性が高い。もし、「大江戸ロケット」のCDがあるならばそれはオリジナル大阪キャストと呼ばれることになるかもしれない。大江戸ロケットは先に大阪で公演され長い期間行なわれたから。
地名には都市名が入るのが普通だけれど、ツアーの場合もあり、そういうのは全米ツアー、ワールドツアーが都市名のかわりに入り込むことがある。
スタジオ録音は行なわれたが舞台での公演がないものもある。これは年度と国とが付加される。「エビータ」の初録音である盤は1976年(イギリス)スタジオキャストと言うような言い方をされる。複数同じモノがなければ国はつかない。ジュリー・アンドリュースの「シンデレラ」は1957年テレビキャストとなる。これらは厳密にはオリジナルキャストと言わないし、サウンドトラックとは言わない。但し、テレビの場合にはフィルムで撮られていることもあるのでサウンドトラックという呼び名が成立しうるかもしれない。
日本のキャスト盤の入手は難しい。四季や東宝・宝塚は出してくれてはいるが、輸入物舞台では作らないことがほとんど。また劇場売りしかしてくれないこともあるし(「アニー」、「花の紅天狗」、「天使は瞳を閉じて」、等々)、特権的に一部の関係者だけに配られる場合もある。ミュージカル座は現時点で三枚のCDを市販してくれているが、後が続かない。そもそも市販して採算の取れる枚数が出ないというのが問題なのだろう。版権や俳優事務所の関係でCD作成が難しい物でも売れることが判っているのならそれなりにモノが出てくると思うのだが。