自由研究
このblogは「くろはたホームページ」というサイトの中の1コンテンツという体裁をとっている。ここの「データ蓄積所」は自由研究に使えるネタがいっぱいあるはず。
これ、そのままコピーするだけでは全然ダメなのだ。単なるデータの羅列でしかないからだ。
これにアレンジを加えるのだ。
たとえば「数のいろいろ」。ここには日本での数字の読み方を始め、ローマやギリシャを始原とする呼び名、大字、ローマ数字の表記法、数の数え方などが表にされている。
まず、数に対して自分が最初に興味を持ったことについて書く。そして検索してこのページに行き着いたことを書く。で、ここに羅列されたものが何であるのか自分で調べる。そしてここに書かれていない何かを自分で探して追加してみる。たとえば大字についてはここに書かれていない表記法があるだろう。それを調べて書く。数字の英語表記が何故最後に書かれているのか読み解いてもよい。それはそれなりの理由があるのだ。このページだけで何ページものレポートが書けることは請け合う。もちろんこのデータ蓄積所のどのページも「更に調べればもっと面白いものがみつかる」ようになっている。ほとんど解説をつけていないのはそういう自分で調べることができるようにするためだ。
自分が子供の頃にこういうページがあったらいくらでも調べて楽しめたと思う。そういうふうに作ったつもりなのだ。
ひめゆり ミュージカル座
五年前の日記を見るとその時は絶賛していた。ところが時間が経つにつれて何か違和感を持つようになってきた。今回の公演を観て、人の意見も聞きながら更に考え、現在思っていることを書き留めておくことにする。五年間の総括でもある。
以下、ネタバレを多量に含むので、まだ見ていない人は読んではいけない。あらかじめ警告しておく。
キャスト(敬称略)
2002年、2004年、2005年、2010年のキャスト表を掲載する。それ以前のキャスト表は未入手。(2002年は組名が記述されていなかった)
役名 | 2002 | 2002 | 2004ひめ組 | 2004ゆり組 |
---|---|---|---|---|
キミ 学徒 | 本田美奈子 | 本田美奈子 | 本田美奈子 | 本田美奈子 |
上原婦長 | 鈴木ほのか | 鈴木ほのか | 土居裕子 | 土居裕子 |
滝軍曹 | 岡幸二郎 | 岡幸二郎 | 岡幸二郎 | 岡幸二郎 |
檜山上等兵 | 石川禅 | 石川禅 | 戸井勝海 | 戸井勝海 |
ふみ 学徒 | 鈴木智香子 | 片桐和美 | 川田真由美 | 鈴木智香子 |
はる 学徒 | 川田真由美 | 深沢美貴子 | 片桐和美 | 鬼頭典子 |
かな 学徒 | 梅沢明恵 | 大久保美鈴 | 梅沢明恵 | 川村絵良 |
みさ 学徒 | 矢野香苗子 | 村上由香 | 三宅文子 | 矢野香苗子 |
ちよ 学徒 | 手塚順子 | 浦壁多恵 | 青島凛 | 南アイ |
ゆき 学徒 | 三辻香織 | 菅原さおり | 三辻香織 | 井上喜代子 |
あき 学徒 | 藤澤知佳 | 永浜あき | 村上由香 | 藤澤知佳 |
杉原上等兵 | 萬谷法英 | 中本吉成 | 中本吉成 | 萬谷法英 |
神谷先生 | 竹本敏彰 | 竹本敏彰 | 竹本敏彰 | 本間識章 |
岡教頭先生・軍医 | 大城一彦 | 大城一彦 | 本間識章 | 高原達也 |
サチ(赤ん坊の母) | 桑原麻希 | 足立紫帆 | 桑原麻希 | 浜崎真美 |
親泊先生 | 亘あずさ | 福地洋子 | わたりあずさ | 福地洋子 |
ルリ(ふみの妹) | 浦壁多恵 | 村上恵子 | 小笠真紀 | 浦壁多恵 |
キヨ(ふみの母) | 福地洋子 | 亘あずさ | 米倉裕子 | 植松恵理 |
みち 学徒 | 村上恵子 | 南アイ | 鈴木さやか | 吉岡裕子 |
のぶ 学徒 | 色摩由維 | 本田麻希子 | 長谷川恵 | 向井玲子 |
クミ 学徒 | 井上聡子 | 高氏真樹 | 市川真紀子 | 村上恵子 |
やえ 学徒 | 勝山めぐみ | 蒲ゆかり | 中井奈々子 | 福田奈実 |
とし 学徒 | 中島みずえ | 大通香 | 村越真喜子 | 朝子洋美 |
みよ 学徒 | 山根三和 | 毛塚奈津江 | 門川明日香 | 毛塚奈津江 |
たき 学徒 | 向井玲子 | 朝子洋美 | ― | ― |
ヒサ 学徒 | 村越真喜子 | 野沢敦子 | 夏目志保子 | 箕輪菜穂江 |
キク 学徒 | 市川真紀子 | 井上喜代子 | 西利里子 | 永浜あき |
もも 学徒 | 横山友恵 | 美彩真依 | 諸戸菜生美 | 木原慶子 |
トミ 学徒 | 芝田真代 | 西利里子 | 田中さとみ | 本井亜弥 |
しず 学徒 | 福田奈実 | 野沢寛子 | 斉藤里絵 | 鈴木恵理 |
女性ens. | 風松真理 | 三浦友美 | 蒔田舞子 | 吉田桃子 |
女性ens. | 斉藤里絵 | 鈴木恵理 | 三浦友美 | 山本英美 |
女性ens. | 関沢明日香 | 深澤英里 | 矢ヶ部妙子 | 高井彩加 |
女性ens. | 由井美貴子 | 小泉千恵 | 中村奈津紀 | 小貫紀子 |
女性ens. | 橋本尚子 | 鈴木さやか | 北川郁 | 久保田法江 |
女性ens. | 大岩厚子 | 吉田桃子 | 覚本弘美 | 米澤麻希 |
女性ens. | 津森久美子 | 末光絵里 | 渡辺さやか | 柴崎奈都子 |
女性ens. | 杵鞭千賀子 | 伊藤祥子 | 須原加奈子 | 佐藤なつみ |
女性ens. | 朝子洋美 | 向井玲子 | 朝日悠紀子 | 長橋佳奈 |
女性ens. | 井上喜代子 | 市川真紀子 | ― | ― |
女性ens. | 野沢寛子 | 福田奈実 | ― | ― |
女性ens. | 毛塚奈津江 | 山根三和 | ― | ― |
女性ens. | 野沢敦子 | 村越真喜子 | ― | ― |
女性ens. | 美彩真依 | 横山友恵 | ― | ― |
女性ens. | 西利里子 | 芝田真代 | ― | ― |
男性ens. | 萬谷法英 | 萬谷法英 | 本田和男 | 本田和男 |
男性ens. | 中本吉成 | 中本吉成 | 菅野良和 | 菅野良和 |
男性ens. | 吉沢範彦 | 吉沢範彦 | 伴仲昭彦 | 伴仲昭彦 |
男性ens. | 筑紫吉幸 | 筑紫吉幸 | 植草栄治 | 植草栄治 |
男性ens. | 奥山寛 | 奥山寛 | 平野淳 | 平野淳 |
男性ens. | 伴仲昭彦 | 伴仲昭彦 | 都月直哉 | 都月直哉 |
男性ens. | 奈良坂紀 | 奈良坂紀 | 萬谷法英 | 中本吉成 |
男性ens. | 高倉申充 | 高倉申充 | 今野哲治 | 今野哲治 |
男性ens. | 菅野良和 | 菅野良和 | 佐野信輔 | 佐野信輔 |
男性ens. | 寺本貴至 | 寺本貴至 | 新宮崇太 | 新宮崇太 |
男性ens. | 本田和男 | 本田和男 | 遠藤修 | 遠藤修 |
役名 | 2005月組 | 2005星組 | 2010月組 | 2010星組 |
---|---|---|---|---|
キミ 学徒 | 島田歌穂 | 島田歌穂 | 知念里奈 | 知念里奈 |
上原婦長 | 土居裕子 | 土居裕子 | 井料瑠美 | 井料瑠美 |
滝軍曹 | 今拓哉 | 今拓哉 | 岡幸二郎 | 岡幸二郎 |
檜山上等兵 | 戸井勝海 | 戸井勝海 | 原田優一 | 原田優一 |
ふみ 学徒 | 鈴木智香子 | 狩俣咲子 | 片桐和美 | 神郡英恵 |
はる 学徒 | 深沢美貴子 | 片桐和美 | 深沢美貴子 | 宮崎祥子 |
かな 学徒 | 川田真由美 | 会川彩子 | 梅沢明恵 | 天野朋子 |
みさ 学徒 | 木村美穂 | 向井玲子 | 藤澤知佳 | 田宮華苗 |
ちよ 学徒 | 村井麻友美 | 青島凛 | 穂積由香 | 青島凛 |
ゆき 学徒 | 浦壁多恵 | 新井祐美 | 浦壁多恵 | 高田亜矢子 |
あき 学徒 | 藤澤知佳 | 朝子洋美 | 三辻香織 | 清水彩花 |
杉原上等兵 | 高野絹也 | 中本吉成 | 麻田キョウヤ | 佐野信輔 |
神谷先生 | KAZZ | 竹本敏彰 | 中本吉成 | 菊地まさはる |
岡教頭先生・軍医 | 高原達也 | 佐野信輔 | 北村がく | 北村がく |
サチ(赤ん坊の母) | 桑原麻希 | 三辻香織 | わたりあずさ | 川田真由美 |
親泊先生 | 三宅文子 | 福地洋子 | 吉田英美 | 大塚恵美 |
ルリ(ふみの妹) | 村上由香 | 村上恵子 | 村上恵子 | 太田智子 |
キヨ(ふみの母) | 福地洋子 | 植松恵理 | 二本松広子 | 伊藤みさお |
みち 学徒 | 永浜あき | 箕輪菜穂江 | 泉瑠衣 | 田代迪子 |
のぶ 学徒 | 梅沢明恵 | 福田奈実 | 西利里子 | 緒川真生 |
クミ 学徒 | 山根三和 | 水野貴以 | 春衣 | 中山理沙 |
やえ 学徒 | 色摩由維 | 鈴木恵理 | 月坂日南 | 小林風花 |
とし 学徒 | 西利里子 | 篠原沙和実 | 中村ひかり | 福田奈実 |
みよ 学徒 | 加藤四季 | 関沢明日香 | 三森千愛 | 坂本香織 |
たき 学徒 | 須藤香菜 | マリア万輝 | 中川絵梨香 | 我妻春佳 |
ヒサ 学徒 | 勝山めぐみ | 赤堀史枝 | 藤井真美 | 小川希 |
キク 学徒 | 深澤英里 | 吉田桃子 | 吉澤由佳 | 鈴奈けい |
もも 学徒 | 池田祐子 | 田宮華苗 | 武藏優美 | 長松恵梨 |
トミ 学徒 | 高田美佳 | 斉藤恵子 | 宮関里美 | 滝口恵梨果 |
しず 学徒 | 富塚万佑子 | 高垣彩陽 | 篠崎未伶奈 | 夢野早希 |
ちえ 学徒 | ― | ― | 梅津めぐみ | 上矢菜緒実 |
女性ens. | 蒔田舞子 | 渡辺さやか | 野沢美喜 | 永谷多佳子 |
女性ens. | 五十嵐智佳子 | 佐々木百合 | 高尾百合 | 高橋佳子 |
女性ens. | 一ノ瀬寛子 | 木村知美 | 黒岩貴子 | 永澤恵 |
女性ens. | 倉島文子 | 川辺由美 | 栗山絵美理 | 香本真梨奈 |
女性ens. | 岡安恵梨奈 | 岡崎桂子 | 高橋咲 | 有坂きなり |
女性ens. | 上矢菜緒実 | 桂月彩有 | 有松仁美 | 妹尾理映子 |
女性ens. | 石川真結 | 島田季久代 | ― | ― |
女性ens. | 根立麻衣 | 林彩香 | ― | ― |
女性ens. | 木下一枝 | 三浦友美 | ― | ― |
女性ens. | 松谷友香 | 馬渡千春 | ― | ― |
男性ens. | 中本吉成 | 高野絹也 | 佐野信輔 | 麻田キョウヤ |
男性ens. | 佐野信輔 | KAZZ | 菊地まさはる | 中本吉成 |
男性ens. | 菅野良和 | 菅野良和 | 青木結矢 | 青木結矢 |
男性ens. | 櫻井太郎 | 櫻井太郎 | 杉野俊太郎 | 杉野俊太郎 |
男性ens. | 高原紳輔 | 高原紳輔 | 秋本晋作 | 秋本晋作 |
男性ens. | 伴仲昭彦 | 伴仲昭彦 | 松戸拓麻 | 松戸拓麻 |
男性ens. | 植草栄治 | 植草栄治 | 佐藤靖朗 | 佐藤靖朗 |
男性ens. | 町田兼一 | 町田兼一 | 室伏崇 | 室伏崇 |
男性ens. | さとうゆういち | さとうゆういち | 森雄基 | 森雄基 |
男性ens. | 古屋泰平 | 古屋泰平 | 竹野聡 | 竹野聡 |
男性ens. | 山口聡史 | 山口聡史 | ― | ― |
これ以前の主役「キミ」役は伊東恵里。
戦争という側面
滝軍曹という人物が描かれる。彼は美しい国と人々を守るために生きている。また生きて虜囚の恥を受けずという態度を持ち、他人にもそうであるように望む人物である。
軍曹の対極にいる人物として上原婦長が描かれる。彼女は傷病兵の看護はもちろん、学徒達に優しく声を掛け励まし、みんなに生きてくれと言い続ける人物である。
学徒や兵士、そして民間人が逃げ落ちた洞穴で赤ん坊が泣き出す。軍曹は母親をスパイと決めつけ、泣きやまない赤ん坊をひねり殺し、怒る母親をも撃ち殺す。
婦長は逃げ落ちるときにお腹を撃たれ息も絶え絶えになっている。そこへ主人公のキミが洞窟に現われる。彼女は皆とはぐれてしまい、ようやく一人、合流することができたのだ。
そこへ米軍からの投降を呼びかける声が聞こえてくる。キミは生きるために投降しようと呼びかけるが、軍曹は許さない。軍曹はキミを撃ち殺そうとする。その時、婦長は学徒達の先生から預かっていた拳銃で軍曹を撃つ。
人の死を善しとしない婦長が軍曹を殺すのだろうか?
婦長が元気だったなら身を挺してキミを守ったことだろう。それが出来ないからそうするしかなかったのかもしれない。そしてその時点で婦長と軍曹は同じ人物になってしまうのだ。軍曹も婦長も同じ論理で行動している人物なのだ。二人ともできるだけ多くの人を生かすために、誰かを殺すという選択を迫られてしまった。
何が問題なのか? 二人をそのような選択におとしめた戦争という出来事である。人に殺人を迫るその状況こそが根本問題なのだ。二人とも立場によっては悪人であり善人であろう。しかし、このような状況にならなければ殺人を行なわなくてすんだのだ。「人を殺してはいけない」というのは絶対真理ではなくて、「人を殺すことが正当化される状況を作ってはいけない」ということのほうが正しいもののように思える。
生きることという側面
キミという主人公の動きを見てみる。
杉原上等兵が病院で足を切り落とされる手術の場に立ち会う。彼は「足を切るくらいなら自分を殺してくれ」と言う。手術後、彼は彼女に感謝の言葉を述べる。米軍の攻撃が激しくなり、病院から撤退することが決まる。その時、動けない者は毒を飲まされ殺される。杉原上等兵もその一人だ。脱出途中のキミはそのことを聞かされ病院に戻ろうと駆け出す。それを檜山上等兵が捕まえキミを肩に担いで脱出していく。
キミと檜山上等兵は仲間達とはぐれる。檜山上等兵は足を撃たれ動けなくなる。キミは彼を看護する。拳銃で自殺しようとする檜山上等兵を阻止し、そしてキミは主題歌「生きている」を歌う。どんなにつらいことがあっても生きるべきなのだと歌う。米国空軍機の機銃掃射にさらされた二人、檜山上等兵はキミをかばい撃たれ、亡くなる。キミは叫ぶ、「私も殺して」と。
そしてキミはみんなが避難している洞窟へとやってくる。滝軍曹と上原婦長の死、そしてガス弾による学徒達の死。一人生き残るキミ。
生き残った他の二つの学徒達の話が描かれる。三人組は米兵から逃げ回った挙げ句、捕まったら水と食べ物を与えられ助けられる。二人の姉妹は助け合いながらようやく自分の家に帰り着く。
彼女たちとキミは生き長らえる過程で質的に大きく異なる、キミだけが多くの命の犠牲により成り立っているのだ。
ただ、彼女だけが助かるシーンを見せるだけでは、彼女の魂が救われない。
そのために彼女と関わったすでに死んだ者達が彼女の前に立ち「生きろ」と励ますのである。そして最後にリプリーズされる主題歌に続く。キミが檜山上等兵の為に歌った「生きている」を自分のために歌うのである。
覆い隠された悲劇
最初に違和感があると書いたが、実はこのキミのことなのだ。
学徒のゆきが歌う「小鳥の歌」は死を目前にした帰郷の歌で、その場面で歌われるときあまりに悲しく感じられる。こちらは戦争の悲惨さを表わしているように見える。
ところが主題歌の「生きている」はそれとは別のものなのだ。そこに死にたくなるくらいの苦しみがあったとしても誰かに生かされた命なのだから生きて行かなくてはいけない。これは戦争とは別の次元の話なのである。
キミは助けたはずの二人の兵隊の死を見、婦長によって殺される滝軍曹を見、自分を助けた婦長の死を見、婦長を見ていないでそのまま降服していれば助かったはずの学徒達の死をも見る。彼女は生き残ったとしても地獄に居るような気持ちだったに違いないのだ。その彼女の魂を救い出すためだけの歌が「生きている」なのである。更にはそれに気がついた観客を助け出すための歌でもあるのだ。
ところが戦争の悲惨さというものがあまりに大きすぎるため、キミの悲劇が覆い隠されてしまっている。観客は「何故、主題歌の出現時に感動を感じるのか」を考えなくてはそこに行き着けない。どのくらいの観客がそこに気づいているのか興味を持つところである。
「サイト」にしても「アイハヴアドリーム」にしても、演出家・脚本家は常に「生きなさい」と言い続けているようである。
キャンディード ジョン・ケアード版
タブラ・ラサ tabula rasa というラテン語の言葉がある。イギリス経験論のロックが使った時がよく知られている。「人は最初タブラ・ラサ(白紙)の状態であり、人は生きて経験することで白紙に自分自身を描いていく。そうして人は人となる」そういうたとえ話で使用される。
キャンディードはラテン語で「純白」のことだ。そこから「純真」の意味も出て来る。キャンディードはタブラ・ラサの状態、つまり登場したその時はまだ人間ではない状態なのだ。
コギト・エルゴ・スム cogito ergo sum もまたラテン語で、哲学では基本となる言葉だ。デカルトの言葉「我思う故に我有り」の原語だ。方法的懐疑、試しに疑えるものは全部疑ってみようと考え、疑っている自分自身だけは疑い得ない存在だと帰結する。人は疑うことから始めて人として存在し始めるのだ。
キャンディードは南米で人の悲惨を自分の悲惨と認識し、パングロス博士の言葉を初めて疑う。パングロスの操り人形であったキャンディードはこの時、ようやく人間になったのである。
ボルテールが舞台上に登場し序曲がなり出す。彼の想像の世界が開きそこへ彼のマリオネット達が登場する。マリオネット達は、歌を歌っても、最初のうちはほとんど喋らない。みんなが饒舌になるのは老女の登場以降だ。
マリオネットで生きている間は総てが最善の世界なのだが、現実を知り、世界の悲惨を自覚する内に彼らは人となっていく。
この作品にはエルドラドという理想郷が登場する。トマスモアの「ユートピア」にしろ、プラトンの「アトランティス」にしろ、「桃源郷」にしろ、理想郷は現実を否定した世界をそこに見せてくれるものだ。現実世界を批判したものなのだ。
キャンディードがエルドラドに着いたとき、それまでの世界とは別物であることを示すかのように天空にある黄金の円環が大きく傾く。キャンディードは争いのない、悲惨のない世界が存在しうることを確信する。
共産主義の始祖の一人、マルクスは人間の本質を労働であると捉えた。人は働くことで何かを創り出し、その創り出したもので人として生きるのだと。
ラストでキャンディートとその仲間達は働き始める。キャンディードは最初にパケットに言う。「君は自分の体じゃなくて自分の作ったものを売りなさい」 迷える羊たちを荒野から救い出したキャンディードは皆が人として生きていくよう指導し自分もその一員になろうとするのである。
マリオネットは全員、人間として生き始めたのだ。
ザ・ミュージックマン
西川貴教主演版の「ザ・ミュージックマン」を池袋の東京芸術劇場中ホールで2回、初台の新国立劇場中劇場で1回見た。キャスト情報は適当に検索していただくこととして。
CD情報
The Music Man: Original Cast (1957 Broadway Cast)
- アーティスト: Broadway Cast
- 出版社/メーカー: Angel Records
- 発売日: 1992/11/17
- メディア: CD
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ブロードウェイ・オリジナルキャスト盤。1956。
バーバラ・クックがヒロイン。ヒロインは歌唱力のあるブロンドの歌姫ばかりだ。
BOC は複数の種類が出ている。ボーナストラックが入っている物もあるのでそちらがお得かも知れない。
- 出版社/メーカー: Buena Vista
- 発売日: 2003/02/11
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ディズニーTV版のCD。
クリスティン・チェノウェスがヒロイン。
日本では入手不能かもしれない。
- アーティスト: Various
- 出版社/メーカー: First Night
- 発売日: 2008/07/22
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これは2000年リバイバルキャスト盤。今回の公演で劇場でも売られていたもの。
フィナーレ、面白いよ。少年のセリフを要チェック。こんな演出だったのね。
他にサウンドトラック盤(これはヒロインがシャーリー・ジョーンズ)、ロンドンキャスト盤がある。いずれも輸入にて入手のこと。
DVD
DVDは映画版、ディズニーTV版がある。いずれも海外仕様なのでそのままではDVDは再生できないので注意のこと。VHS版は視聴可能。当然日本語訳はないのだが、英語字幕は入っているのでそれなりに聴き取れて意味も判るだろうと思われる。
- 出版社/メーカー: Walt Disney Video
- 発売日: 2003/11/11
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- 出版社/メーカー: Warner Home Video
- 発売日: 1998/10/13
- メディア: VHS
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翻訳物の定番
翻訳物舞台だと、舞台上に置かれているものに文字が書かれていることが多い。
たとえば、「スペリングビー」だと会場となる学校の由来や体育館についてローマ字で書かれていた。視力が良いなら裸眼でも読めるかも知れないが、そういうこともあって、たとえ最前列であったとしてもオペラグラスで舞台上を全部チェックしまくる、これがマニアックな客の態度としては当たり前のことだと思う。
「ミュージックマン」でもそういう箇所がある。豚の銅像のプレートだ。
『吾輩はブタである、名前はまだない、このアイオワ州の特産物と言うことになっている、趣味はポエムを読むことである、ブ、ブ、ブ、ブー』
ブタであることの理由が書いてあったのだ。
原語ネタ
英語からの日本語翻訳ということで、いくつかの原語ネタが端折られていたり改変されていることがある。その幾つかを紹介しておく。
男の子の「舌っ足らず」は「さしすせそ」が「しゃししゅしぇしょ」になってしまうというもの。これは、男の子が lisp であり「s」の発音が「th」になってしまうということの翻案。プログラマ的には Lisp というと mule や gcc のベースになっているプログラミング言語だが、そういえば元々そういう意味があったと思い出した。
「オールドミス」は英語的には「old maid」。単語の意味の変遷を調べてみるとかなりきつい言い方のように思える。
市長が繰り返し使う「人民の人民による…」はリンカーンのゲティスバーグ演説。これは英語では「four score」と言っている。同じくリンカーンのゲティスバーグ演説出だしの言葉である。ミュージカル「Hair」の「Abie Baby」がそれを真似した歌詞だ。だから「Happy birthday, Abie baby」と歌う。Abie はリンカーンの愛称。
「イカす女」の原題は「shipoopi」。辞書には載ってない単語。ただし、現代語辞書には載っている。『初出は The Music Man の歌曲タイトルで「shit」と「poopie」の鞄語ではないか』だそうだ。鞄語とは「不思議の国のアリス」のルイス・キャロルが始祖的存在の言葉遊び。二つの単語を鞄に詰め合わせたようにして新しい単語を作る。たとえば「スナーク狩り」の Snark は snake と shark の鞄語。
「Marian The Librarian」は「マリアン」と「マダムライブラリアン」の言葉遊び。
考察
The MusicMan の楽曲リストを US Wikipedia から引用してみる。
"Rock Island" – Charlie Cowell and Traveling Salesmen
"Iowa Stubborn" – Townspeople of River City
"(Ya Got) Trouble" – Harold Hill and Townspeople
"Piano Lesson" – Marian Paroo, Mrs. Paroo and Amaryllis
"Goodnight, My Someone" – Marian
"Seventy-six Trombones" – Harold, Boys and Girls
"Sincere" – Quartet (Olin Britt, Oliver Hix, Ewart Dunlop, Jacey Squires)
"The Sadder-But-Wiser Girl" – Harold, Marcellus Washburn
"Pickalittle (Talk-a-Little)" – Eulalie Mackecknie Shinn, Maud Dunlop, Ethel Toffelmier, Alma Hix, Mrs. Squires and Ladies of River City
"Goodnight Ladies" – Quartet
"Marian The Librarian" – Harold, Boys and Girls
"My White Knight" – Marian
"The Wells Fargo Wagon" – Winthrop Paroo, Townspeople
"It's You" – The Quartet, Eulalie, Maud, Ethel, Alma and Mrs. Squires
"Shipoopi" – Marcellus, Harold, Marian and townspeople
"Pickalittle (Talk-a-Little)" (reprise) – Eulalie, Maud, Ethel, Alma, Mrs. Squires and Ladies
"Lida Rose" – Quartet
"Will I Ever Tell You" – Marian
"Gary, Indiana" – Winthrop
"It's You" (reprise) – Townspeople, Boys and Girls
"Till There Was You" – Marian, Harold
"Seventy Six Trombones" (reprise) – Harold and Marian
"Goodnight, My Someone" (reprise) – Marian and Harold
"Till There Was You" (reprise) – Harold
"Finale" – Company
プロフェッサー・ハロルド・ヒルは偽名。ここでプロフェッサーとは「教授」の意味ではなく「楽団長」の意味だ。町に子供のプラスバンドを作りそれを指揮すると称して楽器や楽譜、ユニフォームまで売りつけるという詐欺まがいの流れセールスマンが主人公。
この作品では彼は最初から最後まで指揮者として行動する。音楽の指揮者ではなく、大人達を煽り子供達を組織しまとめあげていく、そういう指揮者である。彼は誰もを分け隔てなく話しかけ仲間にしていく、非常に有能なセールスマンであり指揮者である。ただ問題は自分が売っているブラスバンドについての知識が無いこと。
最初の「ロックアイランド」は列車内でセールスマン達が歌うラップ風の曲だ。内容はハロルド・ヒルの噂について。舞台ミュージカルでリズムだけの曲を初っ端にやるのは記憶にない。ハロルドはここでは歌わない。
二曲目の「頑固なアイオワ」は町の人達がハロルドに歌う曲。ようやくメロディが現われて一息つくように作られている。
三曲目が「問題あるよ」。ハロルドは話すように歌う。歌といってもほとんど喋りのリズムが基本で、まだ主人公が歌っているとは言えない。
見ている側がストレスを感じ始めるように作っているのだ。
そして場面はヒロインの自宅へ。「ピアノレッスン」の母娘の掛け合いも喋りのリズムが基本。
ようやくここで主人公達のメロディが登場する。「おやすみ誰かさん」でマリアンの歌声が聞こえる。この曲はマリアンの夢を願った曲であることに注意しておこう。
そしてこのあとは体育館で町の人達を煽りまくるハロルドによる「76本のトロンボーン」。「問題あるよ」を序奏にして待ちに待った主人公によるメロディだ。さんざんじらしておいてやっと出た感じがするため、非常に安堵感が与えられる。
原語ネタのところでも少し触れたが、二つの違ったモノを提示してそれが一つのモノであるという見せ方を好んで用いている。これは曲も同じだ。
一つのメロディが出てきて、さらに別のメロディが出てきたと思ったらそれが途中で組み合わさって一曲の曲になるという作りが多い。「Pickalittle」と「Goodnight Ladies」、「Lida Rose」と「Will I Ever Tell You」がそれだ。
この作品の作詞作曲家は曲の秘密を観客に隠さずに教えてくれているのである。
一番の驚きはラスト近くの「Seventy Six Trombones」と「Goodnight, My Someone」だ。最初ハロルドが「76本の〜」を歌い、マリアンは「おやすみ誰かさん」を歌う。それを繰り返し、3回目に歌が逆転しハロルドが「おやすみ〜」を歌いマリアンが「76本の〜」を歌う。ここはハロルドがマリアンに屈し、マリアンが勝利したことを意味するシーンでもあるが、さらに驚きをあたえるのはこの二つの曲は同じメロディを使った曲であることを知らせてくれることだ。とても感傷的な「Goodnight, My Someone」と元気溌剌な「Seventy Six Trombones」がアレンジが違うだけの同曲だと気づかされるから驚くのである。(もちろん最初から判りきっている人もいるとは思うが、このように聞かされなければ私はしばらくの間気がつかなかったと思う)
最後の最後にこのようなネタ晴らしをやってのけて作品は終わる。そして出演者達の演奏する主題歌を聴いて、マリアンの夢とハロルドの夢が同じであったことを理解するのだ。
サウンド・オブ・ミュージック
他の人の書いた劇評を読んでみると、自分は人と見ているモノが違うのかも知れないと思うことがある。作り手達はこんなにもあからさまに伝えようとしているにもかかわらず、どうしてそれが伝わらないのだろう、そういうことを何度も思う。
「ドロウジー・シャペロン」がそうだった。あの作品はミュージカルが何度も外的要因によって止められることで、911の時のブロードウェイショックを暗示し、そして世界で起きている戦争の影響を提示してくれているのだ。そう、作品のどこにもそんなことは描かれては居ないのにそういう意味であることを示してくれた。少なくとも演出家の宮本亜門はそのつもりで作っていたはずだと信じている。そうでなければカーテンコールの時にガザの子供達への募金を呼びかけたりはしない。しかし、その関連性について述べた劇評は無い。何故だ。みんなは見るべきモノが見えていないんじゃないか? そんなにも露わにされているのにどうしてそれを見ないのだ?
四季版「サウンド・オブ・ミュージック」に対する劇評も疑問に感じることの一つだ。
多くの一般観劇者の感想はありきたりのものだ。「子供達が良い」「マリア役が良い」「大佐役が(以下略)」
そして一様に「感動した」という。
感動? あなたたちはいったい何に感動したのだろうか? 自分が感じたという感動について、それはどこから生まれてきたモノなのか、なにがそうさせたのか考えたことがあるんだろうか?
私は強く疑念を持つ。「この作品は感動する作品だと言われているから自分が感動したと錯覚しただけ」じゃないんだろうか?
見沢知廉がこの映画を見たとき、感動などしなかったという。ブルジョアが逃げ出しただけの話だと。
私も初見は映画だった。そして感動した場面が一つある。ラストシーンではない。主題歌を歌う子供達を見て、大佐が歌い始めるシーンだ。大佐の心がほどけて子供達と一緒になるところが救われたと感じたからだ。
今回見た四季版「サウンド・オブ・ミュージック」には政治的意図が多く含まれていることに気がつく。
トラップ大佐はナチのもとで働くのは嫌だが、再度潜水艦に乗って栄誉を受けたい、つまり戦争をしたいと言っている。こんな言葉は映画版には無かったよね、また、東宝版にも無かったよね?
当たり前の話なのだけれども、エルザはナチスドイツを象徴し、大佐はオーストリアを象徴している。そしてマックスはその両者のもとにいるドイツ語圏の人々を象徴している。四季版はこの二人の対立を強調することでドイツとオーストリアの対立を強調しているのだ。マックスはトラップ一家を逃がしたことでゲシュタポに逮捕されていたよね、このことの意味をどう考えるだろうか?
四季版の大佐は精神的に弱い存在として描かれている。自分自身の思いを喋りすぎるからだ。亡命を決意するとき逡巡する人物だ。
「何故ナチに荷担して家族や財産を守ろうとしないのか? 亡命などせずにレジスタンスをするという選択肢は無いのか?」そう観客に考えさせる人間なのだ。
これこそが演出家の悪辣なやりかただ。
演出家はナチを肯定しているのではないか? 戦争を賛美しているのではないか? 祖国から逃げ出すことを恥知らずなことだと考えているのではないか? 逃亡に手助けした良心の人は投獄されてしまうのだと脅しているのではないか?
たぶん、この疑問への回答は全部肯定だろう。
四季版「サウンド・オブ・ミュージック」は演出を理由として駄作と断定する。
あぶない科学実験
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